• TOP
  • お知らせ
  • 学内トピックス
  • ネット裏放送室から見た「県岐阜商VS横浜」 甲子園アナウンス担当?佐々胡桃さん(大阪体育大学卒) 「平常心心がけたが、涙が出そうに」

NEWSお知らせ

学内トピックス

2025.09.02

ネット裏放送室から見た「県岐阜商VS横浜」 甲子園アナウンス担当?佐々胡桃さん(大阪体育大学卒) 「平常心心がけたが、涙が出そうに」

 夏の甲子園準々決勝第3試合、県岐阜商対横浜戦は延長11回8‐7の激闘で、球史に残る名勝負となりました。2時間42分の熱戦の場内アナウンスを担当した佐々胡桃(くるみ)さん(27)=大阪体育大学卒=は「アナウンスは冷静でなければならないのですが、入社5年目で初めて、試合後に涙が出そうになりました」と語ります。

佐々胡桃さん。阪神甲子園球場のスコアボードを背に

ガラス越しのエースの笑顔に鳥肌。ゲームセットで手が震えた


 延長十回表。横浜はタイブレークの無死一、二塁から、エラーと阿部葉太選手(3年)のタイムリーで3点を勝ち越しました。佐々さんはその時、放送室のガラス越しにマウンドのエース柴田蒼亮投手(2年)の笑顔が見えました。鳥肌が立ったといいます。「あの場面でエースとして、みんなを奮い立たせるように笑っていました。笑顔でチームを鼓舞できる精神力のすごさというか、本当に17歳なのかと思いました」
 横浜はセンバツとの春夏2連覇を狙い、高校日本代表に最多の4人が選ばれることになる、優勝候補でした。県岐阜商は戦前に春夏計4回優勝した伝統校で、公立校として唯一、ベスト8に進みました。
 試合は一回表、生まれつき左手の指がないが実力でライトのレギュラーの座をつかんだ横山温大選手(3年)がファインプレーを演じるなど、息詰まる熱戦となりました。
 場内アナウンスは冷静に務めることが重要とされます。佐々さんは他の試合と同様に、入れ込みすぎないように淡々とアナウンスしました。
 しかし、あのエースの笑顔を見て、気持ちが高ぶりました。「タイブレークに入り、球場全体も緊迫したムードの中、選手たちのプレー姿に感動してしまった」。以後は、「考えないように、(選手の表情を)見ないように」と思いながらアナウンスしました。
 試合は十回裏、県岐阜商が3点を挙げて追いつきますが、横浜は内野5人シフトを九回に続いて敢行して追加点を阻みます。十一回表、横浜は0点。その裏、県岐阜商が4番?坂口路歩選手(3年)のタイムリーでサヨナラ勝ちしました。
 佐々さんはゲームセットの時、手が震えていました。校歌斉唱で「〇〇高校の栄誉をたたえ、同校の校歌を演奏して…」とアナウンスする際には、いつも「栄誉をたたえ」の言葉に気持ちを込めてアナウンスすることを心がけていますが、この試合では、試合の緊張感が解けないままだったといいます。

佐々胡桃さん。阪神甲子園球場バックネット裏の放送室で

「スポーツを支える側に」とマネージャーに


 佐々さんは静岡県浜松市出身。アスレティックトレーナー(AT)を目指し、西遠女子学園高校(静岡)からATの受験資格を得られる大阪体育大学に入学しました。高校時代はバレーボール部でしたが、大学ではスポーツを支える側に回りたいと思っていました。野球観戦が好きだったこともあり、入学前、野球部のツイッター(現X)に「マネージャーになりたい」とDMを送り、当時は女子として唯一のマネージャーになりました。会計のほか、アイシングの氷、プロテイン作りからおにぎり作りまで任されました。

大学1年秋からアナウンス


 阪神大学野球リーグの場内アナウンスは、所属チームの女子マネージャ―が当番制で担当します。佐々さんは1年秋から務めました。最初は詳しい野球のルールが分からず戸惑いましたが、次第に慣れました。大学2年の2019年春、大体大の優勝決定試合のアナウンスを偶然担当しました。この試合で、緊張感の中アナウンスをやり通せたことで自信を持てたといいます。
 3年生のころから、将来の進路として野球場でのアナウンス業務を考えました。ただ、どこの球場も定期的な採用はなく、企業への就活も始めていた4年生の6月ごろ、阪神甲子園球場がアナウンス担当を募集していると阪神大学野球連盟の関係者から聞き、すぐに応募。3回の面接を経て内定を受けました。

阪神甲子園球場

阪神園芸に助けられ、高校野球初アナウンス


 阪神甲子園球場のアナウンス担当は、現在、入社2年目から約15年までの6人。下積みから段階を踏んで、タイガースと高校野球を担当します。
 初めて高校野球を担当したのは、入社2年目の2022年センバツです。自分の担当試合は第3試合でしたが、雨のため第1試合から開始時刻が遅れました。自分の試合ができるかどうかそわそわして待っていたが、阪神園芸の整備のおかげもあり、無事試合を行うことができたといいます。

選手名のアクセントは野球部長に確認することも


 高校野球では、バックネット裏の放送室に、アナウンス担当、スコアボードの操作担当、ボール?ストライクのBSO担当が入ります。第1試合のアナウンス担当は、午前6時に出勤。発声練習をし、スタメン表が届くと事前に届いているメンバー表で氏名に相違がないか照合し、スコアカードに控え選手も含めて名前を記入します。
 選手の読み方のアクセントは、阪神甲子園球場での過去の読み方をまとめたデータ集を参考にチェックします。分からない場合はチームが待機している室内練習場に行き、野球部長にじかに確認します。

阪神甲子園球場

甲子園の放送の伝統


 高校野球とタイガースでは、初打席の際に、高校は名前を2回言い、プロは名前の後に背番号を付けるなどの違いはありますが、アナウンスの仕方は同じといいます。一方で甲子園の放送の伝統があり、例えば高校で「鈴木君」とアナウンスする時は名前を目立たせるために「くん」の音を下げます。「6人のアナウンスが6人とも同じように聞こえることがベスト」とされます。佐々さんは「ファインプレーの後はスタンドが盛り上がっているから、状況によっては次のバッターのアナウンスを試合進行の妨げにならない範囲で、少しだけ待つなど、様子を見ながらアナウンスできるように考えている」と話し、ほんの少しの間にも試行錯誤を繰り返しています。
 そんな佐々さんについて、阪神甲子園球場?上野正人副球場長(運営担当)は「声が聞きとりやすく、毎回落ち着いてアナウンスしていて、頼りがいのある仕事をしている。甲子園の伝統を守るために、日々、勉強、練習している」と話します。

甲子園の歴史をつなぎたい


 甲子園球場は昨年、開場100周年を迎え、今年は次の100年に向けての一歩を踏み出しました。県岐阜商対横浜は球史に残り、アナウンスの声もいずれ歴史の一部になるかも知れません。佐々さんは「毎試合毎試合が必死なんです。でも、変わらずにいることはすごく難しいが、先輩方がつないできた歴史を自分たちもつないでいきたい。伝統を守っていくことがやりがいです」と話しています。

▲